17世紀ルイ14世治下のフランスでは独自の演劇文化が花開いた。宮廷を中心とした洗練された貴族趣味と絶対君主制の思想を反映して、ヘレニズムとカトリシズムを前提とした文化の正統性、均衡を重んずる理知的で高尚な精神の表現として古典を題材にした韻文悲劇が愛好された。この時期、悲劇・喜劇ともに優れた作品を生んだ作家にコルネイユがいるが、彼の「ル・シッド」は、作劇上の不備を指摘されて論争が巻き起こり、これをきっかけに、三単一の法則を金科玉条とする古典主義が確立された。ラシーヌは、これらの制約を順守しながら、劇の緊密な構成、登場人物(特に女性)の深い心理描写、完成度の高い詩句などにより、普遍的な人間の理性と情念の葛藤を描いた「フェードル」「アンドロマック」等の名作を生み、古典主義演劇の最高峰とされる。喜劇の分野ではモリエールが、イタリア風の笑劇から風刺喜劇を経て、「タルチュフ」「人間嫌い」等人物の内面を深く掘り下げた性格喜劇を創作した。フランスの国立劇場コメディー・フランセーズは、今日に至るまで常にこの2人の劇詩人の作品を、多彩な演劇活動の基盤として上演し続けている。