1931年創立の劇団。当時はすでに現在と同様、歌舞伎俳優のほとんどは松竹の傘下にあった。一方、経済不況や無産主義政党の活動などを背景に、特に若手や端役を演じる下廻りの俳優の間で、門閥制度や前近代的な慣習に対する反発が広がっていた。待遇問題をきっかけに松竹を脱退した俳優たちにより、河原崎長十郎、中村翫右衛門らを中心にして前進座が結成された。経済的には苦境が続いたが、村山知義や長谷川伸らの作家、劇場主たちの支援や映画界との提携によって、次第に自立した歩みが軌道に乗る。松竹以外で本格的な歌舞伎が上演できる唯一の劇団であると同時に、多くの女優も所属し、新作や翻訳劇・現代劇の上演にも積極的に取り組んでいる。第二次世界大戦前から東京・吉祥寺に本拠を構え、劇団員が家族とともに共同生活を営みながら創造に取り組むというユニークな形を取ってきた。1982年、吉祥寺に前進座劇場を建設。ここを中心に全国で活発に公演を行い、客演や映画・テレビへの出演も多い。長らく代表を務めた代表の中村梅之助(1930~2016)は、かつてテレビドラマ「遠山の金さん」シリーズで人気を博したが、歌舞伎をはじめとする舞台俳優としても日本を代表する一人であった。他にも嵐圭史(1940~)、河原崎國太郎(1962~)、嵐芳三郎(1965~)などの人気俳優を擁する。2011年に創立80周年を迎えたが、前進座劇場は老朽化のため13年に閉館した。