2016年に、舞台芸術やコンサートのための会場が決定的に不足することが懸念されていた問題。首都圏だけ見ても、この時期に老朽化や20年のオリンピックに向けた会場準備の影響により、改修・移転・閉鎖などが決定あるいは予想される施設は、青山劇場、青山円形劇場、日本青年館、津田ホール、五反田ゆうぽうと、渋谷公会堂、横浜アリーナ、さいたまスーパーアリーナ、日本武道館、東京国際フォーラム、日比谷公会堂、両国国技館、中野サンプラザなど、その数とキャパシティー、それぞれの施設の持つ歴史と重要性を考えれば、驚くばかりの内容である。それぞれの事案においては止むを得ない事情もあるだろう。しかし、舞台や音楽を愛好する人々にとっては、どれも数々の大切な思い出と結びついた場所に違いないし、これからもそこで繰り広げられるはずの公演が、行き場を失うことになるとしたら、観客にとっても由々しい事態であると言わねばならない。その後、改修や新築により再開場したものもあるが、例えば、閉館した五反田ゆうぽうとの場合でいえば、長年東京で唯一の本格的バレエ上演の場として、世界の一流バレエ団・ダンサーが多数登場してきた場の損失はあまりにも大きい。結局のところ、文化施設の長期的な展望においても、経済が唯一のファクターであることの表れなのである。古典芸能の殿堂たるべき能楽堂や歌舞伎座が、デパートや高層ビルの中に収納されるという事態は、目に見えぬ本質的な部分の欠落を招くことにもなる。この国においては、公共と商業が一つのものであり、危機管理も含めた社会全体が長期的ビジョンのもとにコントロールされてはいない状況の中で、楽観的な活性化策だけが安易に打ち出されているのである。