毎年7~8月にドイツのバイロイトで開催されているバイロイト音楽祭は、リヒャルト・ワーグナー作品だけを上演し、チケットが手に入りにくい音楽祭の最右翼。戦後の管理・運営に長らく携わってきた、作曲者の曾孫ヴォルフガング・ワーグナーは、2010年3月に90歳の生涯を閉じたが、もめにもめていた後継者争いも、結局彼の2人の娘(母親違い)、エーファ・ワーグナー・パスキエとカタリーナ・ワーグナーの二頭体制として決着した。若い演出家としても嘱望されているカタリーナによる、07年の「マイスタージンガー」の舞台は賛否両論であったが、08年の同作の公演はインターネットのストリーミングでも配信され、またバイロイトでは会場外にもライブ映像が流されて、自主制作のDVDとしても頒布されるなど、新時代への動きが生じていた。09年には「トリスタンとイゾルデ」が同様にネット配信されたが、ヴォルフガング没後初の音楽祭となる10年には、「トリスタンとイゾルデ」が初めてテレビで中継され、日本でもNHKがこれをライブで放映した。長らくワーグナー崇拝者たちの神殿であったバイロイトも、いよいよ世界の誰にでもアプローチできる空間になったと言えるだろう。