ブリュッセルのベルギー王立歌劇場(通称・モネ劇場)の音楽監督(2002~08)に続き、08年9月からフランス国立リヨン歌劇場の首席指揮者として、日本人として類例のないポジションを得た大野和士(1960~)は、その業績が日本国内でも認められ、年間の日本での活動期間が数週間に満たないにもかかわらず、2007年には芸術選奨文部科学大臣賞を受け、08年には異例の圧倒的若さで紫綬褒章を受章。さらに10年にはサントリー音楽賞、そして日本芸術院賞・恩賜賞 を受賞した。こうした授賞・授章の背景には、日本でももう少し指揮してほしいというラブコールがあるようにも思われるが、大野の得意とするオペラの領域で、彼を受け入れるに足る、恵まれたポジションというものが国内に見あたらないのも確かである。すでに世界各地の一流オーケストラを指揮しているが、メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、パリ・オペラ座といった最高峰の歌劇場の指揮台に軒並み立った日本人はかつていない。その人気は、彼の久々の登板となった新国立劇場で、10年12月に行われた「トリスタンとイゾルデ」公演が、早々に全日売り切れた事実が物語っていよう。公演後、過労のため休息が必要とされたが、まだまだ活躍が広がりそうな才能にいっそう期待が募る。