ポルトガルのポピュラー音楽の一種で、名前はラテン語のfatum(宿命)に由来するとも言われる。19世紀中期に地中海各地の音楽やブラジル音楽の影響を受けながら港町リスボンで生まれた。ファドの家と呼ばれるレストランでうたい継がれてきたが、1954年にアマリア・ロドリゲス(Amalia Rodrigues 1920~99)が「暗いはしけ」をフランス映画「過去をもつ愛情」の中でうたってヒットしたころから、国際的に知られるようになった。コブシを多用して情感豊かにうたわれる歌は、サウダーデ(郷愁、懐旧などを意味する)のあるものがよいとされる。伴奏は洋梨形の弦楽器ギターラ(ポルトガル・ギター)を中心にした小編成の弦楽団によることが多い。74年のカーネーション革命(独裁体制を終わらせたポルトガルの無血革命のことで、革命のシンボルがカーネーションだったことから付けられた)後、過去の音楽とみなされた時期もあったが、90年代以降はカマネー(Camane 1967~)、マリーザ(Mariza 1973~)など数多くの歌手が活躍している。リスボンとは別にコインブラにも学生たちのセレナーデから発展したファドがある。スタンダードとして知られる「ポルトガルの四月」も「コインブラ」というファドが原曲。