ポール・リクール。Paul Ricoeur。哲学者。
5月20日、哲学に新たな局面を切り開いたフランスの哲学者ポール・リクールさんが、老衰のため死去。92歳。
1913年、フランス・ドローム県バランス生まれ。レンヌ大学、パリ大学に学び、教授資格試験に合格したが、第二次世界大戦で徴兵され、戦時中はそのほとんどをポーランドの捕虜収容所で過ごした。戦後は各地のリセ(7年制の公立高等学校)で教師を務めた後、ストラスブール大学教授を経て、56年よりパリ大学教授、73年からはシカゴ大学教授も兼任。現象学と実存哲学の研究から出発し、未完の大著「意志の哲学」を構想。精神分析の成果や英米分析哲学の手法を取り入れた「解釈学的現象学」の立場に立ち、記号論に対し「隠喩の意味論」の立場を強調。神話、聖書解釈、精神分析、隠喩論、物語論と幅広い具体的な領域でテクスト解釈学を展開した。また一貫して全体主義を批判したことでも知られた。2000年には思想・芸術部門で京都賞を受賞。「生きた隠喩」「他者のような自己自身」「時間と物語」など膨大な著作を残した。