イトウ・キヨシ。数学者。
8月22日、スペインのマドリードで開かれた国際数学者会議において、数学者で京都大学名誉教授の伊藤清がガウス賞の第1回受賞者に選ばれた。ガウス賞は、ビジネスや人々の暮らしに強いインパクトを与えた数学研究を称える趣旨で創設された賞。賞金は1万ユーロ(約150万円)。
1915年、三重県北勢町(当時)生まれ。東京帝国大学理学部数学科を卒業後、内閣統計局に勤めた。その後、名古屋帝国大学の助教授を経て45年に博士号を取得。名古屋帝国大学、京都大学、デンマーク・オールフス大学、アメリカ・コーネル大学の教授などを歴任した。
今回の受賞は伊藤が42年にガリ版刷りで発表した「確率微分方程式」によるもの。微分方程式に確率過程を導入することで自然界のランダムな動きを数式で表す「伊藤の公式」は、工学や生物学に応用され、80年代には株価や為替などの変動を数式で予測する金融工学にも応用されるようになった。
97年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・マートン(アメリカ)らのデリバティブ(金融派生商品)の理論「ブラック・ショールズ方程式」は「伊藤の公式」を元にしていた。このことなどから「ウォール街でいちばん有名な日本人」ともいわれる。
なお、ガウス賞と同時に発表された、40歳以下の数学功労者を称える「数学のノーベル賞」といわれるフィールズ賞(1936年創設)では、ロシアのグレゴリー・ペレルマン(40)が受賞を辞退。ペレルマンは、フランスの数学者アンリ・ポアンカレが提示した幾何学の難問「ポアンカレ予想」を解いた功績が認められていた。