ギリシャの深刻な財政赤字が表面化したことが引き金になって2009年末から始まった信用不安。10年に入り、ヨーロッパや世界の金融市場にも混乱が波及した。ギリシャでは09年10月に総選挙で政権が交代し、中道左派のパパンドレウ新政権は、前政権が発表した09年の財政赤字の対GDP(国内総生産)比3.7%を、EU(欧州連合)の財政基準3%を大きく上回る12.7%へと上方修正した。その結果、12月に欧米の格付け会社がギリシャ国債を格下げ、これをきっかけに長期金利が上昇し、財政危機が明らかとなった。ギリシャ政府は09年12月、10年1月、3月と3回にわたり、300億ユーロの赤字削減計画を柱とする財政再建策を発表したが、市場の動揺は収まらず、ギリシャ国債を大量に保有するヨーロッパの金融機関への信用不安の波及や、ギリシャと同様に財政赤字を抱えるユーロ参加国で、ギリシャを含めてPIIGSとよばれるポルトガル、イタリア、アイルランド、スペインの信用問題へと混乱は拡大した。また、危機は、共通の財政政策を持たないという統一通貨ユーロの構造的な弱点を浮き彫りにし、ユーロの下落と、その信認が揺らぐ事態を招いた。当初は、安易な政府支援は財政規律をゆがめるとの立場だったEUも、3月にユーロ加盟国とIMFが緊急時に協調融資するギリシャ支援の枠組みに合意、4月には初年度でユーロ加盟国が最大300億ユーロを融資し、IMF(国際通貨基金)も協調融資を行うギリシャ支援策を決定、さらに5月7日にはユーロ圏緊急首脳会議で、3年間総額1100億ユーロ(EU800億ユーロ、IMF300億ユーロ)の金融支援実施を了承して混乱の沈静化を図った。しかし、なお世界的な株安の連鎖が起きるなど、市場の不安定な状態が続いたため、5月10日、EU緊急財務相理事会で、ユーロ防衛を目的とした、危機に陥った加盟国救済のためのユーロ諸国による総額7500億ユーロ(約89兆円)の緊急対策「欧州安定化メカニズム」創設を発表した。