果物の一つひとつがもつ個体ごとの特徴から、その個体を特定して識別する技術で、NECが開発して2011年3月7日に発表した。その名の通り、バイオメトリクスと呼ばれる生体認証技術を農業(agricultural)の作物に応用するものとなる。メロンのように表皮に模様がある高級品を対象とし、トレーサビリティー(traceability)、すなわち生産から流通、販売までの履歴を追跡・照会することで、産地の偽装や誤表示を防止することを目的とする。照会のプロセスは、(1)収穫・出荷時などに、あらかじめ作物を撮影してサーバーに保存しておき、(2)販売時などに、デジタルカメラや携帯電話で果物を撮影、(3)このとき果物の向きが斜めから見たものであっても、最大で20度までの範囲であれば正面から見たアングルに画像補正し、(4)表皮の模様のパターンをサーバー内の画像と比較し、識別を行う。このうち、(3)は顔認識の技術を応用したものとなり、(4)は指紋認識の技術を応用したものとなる。同社が約1800個のメロンを撮影して実験を行ったところ、本物を偽物と誤認する確率は0.4%、偽物を本物と誤認する確率は0.0001%だったとされる。従来、産地やブランドを証明するものとして、電子タグやバーコードラベルを商品に取り付ける方法が使われてきたが、相応のコストと手間がかかるうえ、付け替えによる偽装も困難ではない。対して、アグリバイオメトリクスは、手持ちのデジタルカメラやカメラ付きの携帯電話と、それをしかるべきサーバーへ送るソフトがあるだけでよい。また、作物の表皮に現れる模様はランダムに生じるパターンであるため、完全に同一なものが生じることはなく、偽装工作は不可能に近い。同社は、この技術研究を進めながら2~3年後の実用化を目指すという。