アメリカの大統領府内に設置された通商問題を担当する機関。通商や直接投資に関する政策の作成や調整、知的所有権保護活動の促進、諸外国との交渉監督など、幅広い分野で強い権限を持つ。通商代表はUSTRの長官職で、大使資格をもつ大統領直属の閣僚級ポスト。外交交渉の権限をもち、貿易協定の締結や紛争解決に向けて外国政府と直接交渉するほか、世界貿易機関(WTO)や国連貿易開発会議(UNCTAD)など国際的な通商政策機関ではアメリカ代表を務める。2012年2月現在の通商代表はロン・カーク。ワシントン、ジュネーブに次席代表各1人が常駐している。USTRの著名な活動の一つに、通商法に基づく不公正貿易の調査・勧告があり、外国政府が行った貿易制限的な政策・慣行等に関する年次報告として外国貿易障壁報告書を毎年3月末に発表している。USTRは1962年に、通商拡大法によって、当時のケネディ大統領が通商交渉特別代表ポストを創設したことに始まる。63年には大統領府の一機関として通商交渉特別代表部が発足。74年の通商法によって、行政機関としての法的な位置づけと権限強化が行われ、80年、当時のカーター大統領の特別令で改組されてUSTRとなった。USTRをめぐっては、2012年1月13日、オバマ大統領が、通商と商業で業務が重複するUSTRをはじめ、商務省、中小企業局、輸出入銀行、海外民間投資会社(OPIC)、貿易開発局の6政府機関を統合して新機関を創設する案を発表した。連邦政府のスリム化がねらいで、10年間で約30億ドルの歳出削減の効果があるとしている。ただし、統合には議会承認が必要なため、その実現は不透明な状況にある。