法務大臣が検察官の事務に関し、検察官を指揮監督する権限。ただし、個々の事件の取り調べや処分については、検事総長だけしか指揮することができない。この検察庁法14条の規定は、検察官が犯罪捜査に関し強大な権限をもっているため、捜査機関が暴走しないように配慮したものといわれている。これまで実際に指揮権が発動されたのは、1954年の「造船疑獄」事件のときの一例だけ。造船疑獄は、政官界を巻き込んだ造船融資をめぐる贈収賄事件で、東京地検特捜部は、当時与党だった自由党の佐藤栄作幹事長を収賄容疑で逮捕しようとして、逮捕許諾請求を行ったが、吉田茂内閣の犬養健法相が指揮権を発動してこれを拒否した。世論はこれに反発し、犬養法相は辞任。それ以来、指揮権の発動は司法への政治介入を招くとして行使されていない。歴代の法相は指揮権発動に否定的な姿勢を取ってきたが、鳩山由紀夫内閣の千葉景子法相は会見で、「一般的に指揮権について存在することを承知している」と述べ、発動に積極的という見方が広がった。民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件などに関連し、千葉法相の言動がさまざまな憶測を呼んだ。