2011年7月から続いた記録的な大雨の影響により、タイの各地で発生した大規模な洪水。熱帯モンスーン気候であるタイは、毎年6~10月が雨期にあたり、洪水が起こることもまれではないが、11年は50年ぶりともいわれる大雨で、国土を南北に流れるチャオプラヤ川流域の堤防が次々に決壊、首都バンコクを含む各地に被害をもたらした。タイ政府によると、10月25日時点で死者366人、被災者293万人。また、タイは「アジアのデトロイト」と呼ばれるほど自動車産業が集積しており、日系企業もホンダ、日産、三菱自動車など大手8社が進出、これに伴って中小自動車部品メーカーも多数進出してきた。今回の洪水では、アユタヤ郊外のサハラタナナコン工業団地やロジャナ工業団地、タイ中部にある国内最大のナワナコン工業団地など、こうした日系企業も多く集まる工業団地が次々と冠水。浸水による直接の被害だけでなく、部品供給が停止するサプライチェーン(供給網)の断絶により、多数の企業が操業停止に追い込まれる事態となった。日本貿易振興機構(JETRO)によると、被災した日系企業は7工業団地で約447社(11月6日時点)。被害が拡大した背景には、記録的な雨量に加え、上流の山間部で森林伐採が進んだことによる保水機能の低下が挙げられるほか、ダム放流の遅れや、国内の政治的対立による治水対策の遅れなども指摘されている。11年8月に発足したインラック政権は11月1日、洪水からの復旧と今後の対策に、9000億バーツ(約2.3兆円)規模の「ニュータイランド計画」を発表したが、政権の対応力が問われている。