東京理科大学の辻孝教授が中心となるグループが細胞操作によって人為的に作製した毛包で、周囲の組織となじみ、本来と同等の毛を再生する能力をもつ。2012年4月18日に発表されると、毛髪再生(functional hair regeneration)への期待から、各メディアで広く報じられた。毛包とは、皮膚の毛穴から下、毛の末端の毛球までを包んでいる組織をさし、毛を作り、支える役目をもっている。同教授らは、発生初期の段階にある胚細胞から2種類の幹細胞を取り出し、これらをコラーゲンゲルの中で高密度に区画化して立体的に配置することによって、臓器や器官のもとを培養する器官原基法(bioengineered organ germ method)という細胞操作技術を開発。07年には、マウス実験によって、本物の歯と同じように機能する再生歯を作り出すことに成功し、発表の際、毛髪再生の可能性についても言及していた。本来、毛には周期的に抜けたり生えたりを繰り返す毛周期(hair cycle)という性質がある。この毛周期を保つため、毛包には成体になってからも幹細胞が存在し、可変部と呼ばれる領域を作り直すことによって、毛包そのものを再生することができるようになっている。そのため、毛包の場合、成体からでも上皮幹細胞と毛乳頭細胞という2種類の幹細胞を取り出すことができ、器官原基法によって毛包のもとを作り、これを皮膚内に移植して再生毛包に成長させることが可能となった。マウス実験では、ヒゲの場合は約74%の確率で再生毛包からの発毛に成功し、周囲の神経や筋肉とも接続しているため、毛を逆立てる立毛機能も備えていることが確認された。再生毛包から生える毛は、頭髪や体毛など、体のどの部位の毛包に由来する幹細胞から作られたかに応じて毛の種類や質が決まり、もとの毛包に存在する色素幹細胞を加えれば、色のコントロールもできるようになる。同グループは、今後10年ほどかけて、ヒトへの臨床応用を目指していくという。