植物に感染症ウイルスを媒介する、ポリミキサ菌(bacillus polymyxa)という土壌細菌が作り出す抗生物質。1950年、日本人研究者が福島県内で発見し、日本初の抗菌薬として開発された。多数のアミノ酸が結合する、ポリペプチドという構造をもつのが特徴で、細菌の細胞質膜にとりつき、膜を破壊して殺菌を行う。とくに緑膿菌、大腸菌、肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌に対して有効。半面、細菌以外への毒性も強いため、投与量を過ぎると腎障害、神経障害などの副作用が起こる。日本では70年代まで頻用されていたが、安全性や効果がすぐれた新薬に座を奪われ、現在は未承認薬となっている。しかし近年、アメリカやヨーロッパで、複数の抗生物質が効かない多剤耐性菌への有効性が注目され始め、院内感染が問題化している多剤耐性アシネトバクターや、抗生物質を分解するNDM-1酵素をもつ多剤耐性大腸菌に効果を示した、という報告もなされた。そこで日本化学療法学会など感染症関連の学会は、多剤耐性菌対策として国に再導入を提言。2010年10月、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会が、用途を限定したうえでの復活方針を決めた。