オーストラリアを中心とした熱帯や亜熱帯地域に生息する空中浮遊菌の一つで、毒性をもつ真菌株(カビ)。クリプトコックス・ガッティとも呼ばれ、コアラなどに感染する病原体として知られる一方で、まれにヒトにも感染し、同属のクリプトコッカス・ネオフォルマンス(C.neoformans)による感染症とともに、クリプトコッカス症を発症させる。従来、どちらの菌に感染した場合でも症状は重くはなく、せきや胸の痛み、頭痛程度にとどまるが、1999年、カナダのブリティッシュコロンビア州のバンクーバー島で、C.ガッティの新種による感染症が集団発生。患者たちは、感染後2~11カ月という長い期間を経て発症し、発熱、ひどいせきや息切れ、鋭い胸の痛み、髄膜炎による頭痛、体重低下などを起こして、ときとして死に至らしめられるなど、従来とは異なる重い症状をもたらした。C.ガッティは遺伝子のパターンによってVGI~VGIV(Iは“1”、IVは“4”を現すローマ数字)に分けられ、バンクーバー島で確認された新種はVGIIの遺伝子タイプとなり、主要となる株のVGIIa、少数株のVGIIb、VGIIcと分類される。その後2004年には、アメリカ本土のオレゴン州、ワシントン州、カリフォルニア州、アイダホ州などの太平洋岸北西部でVGII型のC.ガッティによる感染症が確認され、さらに発生地域は世界的に拡大し、日本でも10年8月までに1件の発症例が報告されている。C.ガッティ、C.ネオフォルマンスともに、空気中に浮遊した状態の真菌株を吸い込むことによって感染するが、風邪やインフルエンザのようなウイルス感染とは異なって、他人に伝染することはない。現時点でワクチンなどの予防措置はなく、抗生物質の投与が有効とされるが、VGIIc型の遺伝子をもつC.ガッティに感染した場合、致死率は約25%ともいわれる。免疫力の落ちている人だけでなく健康な人にも感染するため、日本の国立感染症研究所も実態調査に乗り出した。