広島県福山市沼隈半島の鞆港(ともこう)とその周辺海域のこと。瀬戸内海の中央に位置し、潮の分岐点に当たることから、潮流の変化を待つ船が多く立ち寄った「潮待ちの港」として古くから知られる。万葉集にも詠まれた700年代には既に港としての役割を果たしていたとされる。江戸時代には交易都市として繁栄し、現在も雁木(がんぎ)と呼ばれる階段状の船着き場など、当時の湾港施設や町並みが残されている。周辺地域を含め、鞆の浦は1925年に「鞆公園」として国の名勝の指定を受けた国内有数の景勝地であり、近年は2008年に公開された宮崎駿監督のアニメ映画「崖の上のポニョ」の舞台のモデルとされたことからも注目を集めていた。1983年には広島県と福山市が、現地周辺地域の交通渋滞の緩和のために、港の一部埋め立て・架橋計画を決定したことで、論争が起きていた。2007年には反対派住民の提訴を受け、広島地方裁判所は09年に埋め立ての中止を県に命じたが県は控訴。以来、地元住民の賛成反対両派による協議会や県と市の会談が重ねられていたが、12年6月25日、広島県の湯崎英彦知事が計画を撤回する方針を正式に福山市に伝えた。架橋に代わり、山側にトンネルを通すことで景観を守りつつ、市民生活の利便性を向上させるとしている。