A型インフルエンザウイルスによって起こる、豚の呼吸器疾患。ウイルスそのものを指す場合もある。豚インフルは省略した言い方。インフルエンザはもともと野生の水鳥の病気だが、病原体であるオルトミクソウイルス科のA型ウイルスが変異して、人間をはじめ他のほ乳類へも伝染するようになったと考えられている。そのため豚由来のウイルスには複数の変異型が存在し、現在までにH1N1、H1N2、H3N2、H3N1の4種が見つかっている。とりわけ主要勢力は、1930年にアメリカで発見されたH1N1タイプ。このウイルスは1918~19年に世界中にスペイン風邪を蔓延(まんえん)させ、Aソ連型と呼ばれる人由来の季節性インフルエンザウイルスと、ほぼ同じ構造や特徴をもつ。本来は毒性が弱く、呼吸器のみを害し、症状は咳(せき)や発熱程度。感染した豚に直接触れるなどしない限り、人にうつる危険性は低いとされてきた。アメリカの疾病対策センター(CDC)の記録でも、2005年12月~09年2月に、豚から人へ感染したという報告はわずか12例だった。09年4月、アメリカとメキシコで同時期に発生した豚インフルエンザの人への集団感染で、CDCはH1N1タイプの豚インフルエンザウイルスが新型に変異し、人から人への感染力を得たと発表。世界保健機関(WHO)では、パンデミック(世界的大流行)に関する警戒レベルを引き上げ、各国に厳重な注意を呼びかけた。