ベータ線(β線)の被曝(ひばく)による放射線熱傷(radiation burn)で、放射線皮膚障害(radiation dermatosis)と呼ばれる独特の損傷をもたらす。ベータ線は高速の電子からなる粒子線で、その速度やエネルギーの強弱によって透過距離が異なるが、透過力自体は弱く、金属やプラスチックの薄い板で止められる一方、生体では1~10ミリほど透過する。多くの放射線と同様、ベータ線もまた透過の際に、その物質の原子がもともともっている電子を弾き飛ばしてしまう電離作用(ionization)をもち、被曝に際しては、透過力が弱いがゆえに、皮膚表面から透過が止まるまでの間で、細胞に対してこの作用を最大限に発揮することになる。特に問題なのは、細胞の中核となるDNAを損傷するDNAクラスター損傷(DNA clustered damage)をもたらすことで、新たな細胞を再生する能力が阻害されてしまい、治癒自体が成り立たなくなってしまう点にある。そのため、「熱傷」とはいうものの、通常の火傷とは全く異なるかたちで患部の症状が進行する。とりわけ、細胞周期、すなわち細胞が分裂してから次の分裂を行うまでのサイクルのどの時点で被曝したかで症状の発現が異なってくるため、被曝直後にどの程度の症状に及ぶか診断することは難しい。また、被曝線量が大きいほど早く重く発症し、重篤な場合は、まず急性障害として、(1)数時間~数日のうちに紅斑(こうはん)が現れ、(2)3~6週後には表皮の細胞を作る胚芽細胞の減少とともに皮膚が角化してはがれ、(3)4~6週後には水ぶくれやびらんが生じ、(4)6週未満で潰瘍ができ、(5)10週未満で壊死が起こる。被曝が軽度である場合も含め、(1)(2)(3)(4)の症状には副腎皮質ステロイドを含むローションや軟こうなどで対応するが、その効果は経過を見て判断するしかなく、観察のために2~3カ月を要することもある。表皮の再生が困難である場合は皮膚移殖、ないしは動物の皮膚を用いる異種移植を施したのちに、人工真皮を移殖し、血管と真皮が再生したら上皮の移殖を行うという長期にわたる何段階もの治療が必要となる。その後も、痛みや知覚異常、血管拡張などの症状が続き、同時に晩発性障害として発がんのリスクもつきまとうことになり、切断などの処置も余儀なくされることがある。