脳への酸素供給量が低下し、脳に障害をきたした病態。血液流量の低下(虚血)と血液の酸素運搬能の低下(低酸素血症)が混在することが多いので、低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopathy HIE)と呼ぶこともある。同症の原因は循環不全と呼吸不全に大別できるが、前者には心筋梗塞、心停止、各種の循環性ショックや出血など、後者には脳炎、脳卒中、薬物中毒などによる呼吸中枢系疾患、肋骨骨折などの外傷による呼吸困難、気道閉塞による窒息、肺炎や肺気腫、肺梗塞などの各種肺疾患、一酸化炭素中毒などがある。また、新生児では胎児期における母体の麻酔や心不全などによる低酸素症、出産時の前置胎盤、臍帯巻絡、遷延分娩、出生時の無呼吸発作などにより起こる。脳は体重のわずか2%しかないが、酸素消費量のうち20%を占め、心停止が3~4分続けば、脳に損傷が起こってくる。特に酸欠に弱い部分として、協調運動や随意運動をつかさどる小脳のプルキニエ線維と大脳の頭頂後葉皮質、記憶と学習をつかさどる大脳辺縁系の海馬があり、これらが損傷すると重篤な認知障害、運動障害などが起こる。生命維持に関与する脳幹は比較的損傷されにくいとされるが、脳の損傷は脳の表面、内部にかかわらず均等に広がるため、酸欠が長引けば死に至る。2010年8月28日、元プロレスラーで引退後は鬼コーチとして多くのトップレスラーを育てた山本小鉄が、低酸素性脳症により死亡した。