マグニチュード9規模の南海トラフの巨大地震によって想定される被害。巨大地震は駿河湾から日向灘にかけての水深約4000メートルにある南海トラフ沿いを震源域とし、2012年3月に、最大34.4メートルに達する津波高や、最大震度7の震度分布などの地震規模推計が公表された。被害想定は、8月29日、この推計を基に、内閣府の二つの有識者会議「南海トラフの巨大地震モデル検討会」と「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」から発表された。地震域や季節、発生時刻、風速、早期に避難する人の割合など、異なる条件を様々に組み合わせて被害を想定した。このうち、人的被害が最悪となるケースは、在宅率の高い冬の深夜、風速8メートルの強風で、駿河湾から紀伊半島沖の断層が大きく動き、東海地方を中心に大津波が襲うという想定。関東から九州、沖縄にいたる30都府県に及ぶ地域での死者は、津波で23万人、建物倒壊で8万2000人、火災などで1万1000人、合計で32万3000人に達すると試算された。負傷者は最大62万3000人、脱出困難者は31万1000人。東日本大震災の約1.8倍となる1015平方キロが津波で浸水する。また、水門が壊れると死者はさらに2万3000人増えるとしている。一方、建物被害が最大となるのは、調理や暖房に火が使われる冬の午後6時、風速8メートルの強風で、四国沖~九州沖の断層が大きく動き、九州を中心に大津波が襲う想定で、揺れで134万6000棟が倒壊、火災で74万6000棟が焼失、津波で15万4000棟が流失など、238万6000棟が全壊・焼失という試算となった。これらを03年の東海・東南海・南海地震が連動する三連動地震の被害想定や、11年の東日本大震災と比較すると、それぞれ死者は約13倍と約17倍、全壊棟数は約2.5倍と約18倍、という前例のない規模となる。ただし、最悪クラスの巨大地震の発生そのものの可能性は低いとされている。また、津波からの迅速な避難や建物の耐震化などにより、死者を6万1000人にまで減らせるとの試算も同時に公表され、防災意識の徹底や減災対策の推進の重要性が強調された。