感染症の治療に有効な、抗生物質を分解してしまう酵素。この酵素を産生できる遺伝子を細菌が獲得すると、抗菌剤で退治できない、多剤耐性菌に変異してしまう。2008年、インドで病気にかかった患者から初めて検出されたため、正式名をニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ1という。メタロ-β-ラクタマーゼとは、ペニシリンをはじめ、ほとんどの抗生物質を分解する能力をもつ酵素群の名称。NDM-1もその一種だが、とくに腸管細菌が産生遺伝子を獲得しやすいのが特徴で、現在までにNDM-1由来の大腸菌や肺炎桿菌(かんきん)の広がりが、インド周辺国、アメリカ、ヨーロッパで確認されている。これらの細菌は多剤耐性型であっても、健康な人の腸管粘膜や体表面に付着しているだけでは、原則的に害をおよぼさない。しかし今後、市中に広がる過程で尿路感染症、肺炎などを引き起こす新型菌の出現可能性が指摘されている。また、腸管細菌でも毒性の強いサルモネラ菌、赤痢菌などが多剤耐性型に変異する危険性もあり、世界保健機関(WHO)が警戒を強めている。日本では09年5月に栃木県の獨協医科大学病院に入院していたインド帰りの患者から検出された細菌が、その後の検査でNDM-1由来の多剤耐性大腸菌であることが確認された。