感染症治療に用いる抗菌薬が効かない、新型の肺炎桿菌(かんきん)。本来、肺炎桿菌は自然界に多く存在し、ヒトの腸管や鼻、のどなどに常在する腸内細菌の仲間だが、弱毒性のため健康な人には害をなさない。ただし他の病気、けがなどで免疫力が低下していると、二次感染によって重篤な肺炎や敗血症、髄膜炎をもたらすことがある。しかも、広域抗生物質と呼ばれる作用範囲の広い抗菌薬に長期間さらされると、菌交代現象を起こし、薬剤耐性をもつ新型菌に変化しやすい。ここ数年、現時点でもっとも強力で、感染症防御の切り札とされているカルバペネム系の抗生物質を分解してしまう、KPCカルバペネマーゼ(klebsiella pneumoniae carbapenemase)という酵素を産生できる肺炎桿菌が拡散し、アメリカ、ヨーロッパ、中国などで大きな問題となっている。日本においても、2009年に福岡市の九州大学病院で、アメリカの病院から転院してきた患者から、KPCカルバペネマーゼをもつ多剤耐性肺炎桿菌が初めて見つかった。それを受けて厚生労働省は、10年9月より全国の医療機関を対象に実態調査を開始している。