アメリカのベトナム戦争介入に関する政策決定について、1940年から68年までの経緯を詳細に記録、分析したアメリカ国防総省(通称ペンタゴン)の秘密報告書のこと。正式名称は、国防総省内部部局ベトナム・タスクフォース報告書(Report of the Office of the Secretary of Defense Vietnam Task Force)。リンドン・ジョンソン大統領政権下の67年に、ロバート・マクナマラ国防長官が作成を指示。69年に約7000ページ、48部構成の報告書が完成した。機密指定されたこの報告書には、アメリカがベトナムへの介入をさらに深める契機となった64年のトンキン湾事件が、アメリカ軍による偽装工作だったことなど、歴代政権が国民を欺いて戦線を拡大した経緯が記されていた。執筆にかかわったダニエル・エルズバーグ博士が71年、反戦の立場から内部告発として報告書の一部をニューヨーク・タイムズ紙に流し、同紙がスクープとして同年6月13日、その文書に基づく連載記事の掲載を開始した。これに対しリチャード・ニクソン大統領政権は、「国家安全保障に対する脅威」を理由に掲載差し止めを迫ったが、ニューヨーク・タイムズ紙は連載を続行し、最終的に連邦最高裁判所が報道の自由を認める歴史的判決を下すに至った。ペンタゴン・ペーパーズの暴露は、ベトナム戦争に対するアメリカ国民の反戦機運を通じて、アメリカのベトナム撤退(75年)に影響を及ぼした。ニューヨーク・タイムズ紙のスクープからちょうど40年を迎えた2011年6月13日、ペンタゴン・ペーパーズの機密指定が解除され、その全体がアメリカ国立公文書館などで公開された。