網膜に直接映像を送り込む装置。網膜は一瞬の光でもとらえることができるが、同時にその光の像を引きずる「残像」の性質をもつ。そのため、網膜に細いレーザー光を直接送り込み、ブラウン管テレビの原理と同じように高速でジグザグに走らせる、つまり走査させると、残像のために1コマの画像として認識させることができる。これをさらに連続させることで、動く映像として認識させようとするのが、網膜走査ディスプレーである。(1)元となる映像を映し出す「光源モジュール」、(2)その映像を高速回転するミラーでジグザグに読み取りながら、同時に走査用のレーザーにする「光走査モジュール」、(3)(2)のレーザーをレンズなどを使って網膜へ導く「接眼モジュール」からなる。ブラザー工業はこの装置の大幅な小型軽量化を実現し、メガネ型にした試作機を開発、2008年4月11日に発表した。(2)と(3)で構成した25gの本体をメガネの脇に設置し、(1)は外付けにしてケーブルでつなぐ。最も重要な(2)には、新たに極小の光MEMS(マイクロマシン)を開発。1mm径のミラーが1秒当たり約3万回の高速回転をなして、(1)の映像から細密な走査用のレーザーを作り、網膜に横方向の走査を行う。さらに、縦方向の走査を行うモジュールも併設することで、800×600画素、1秒当たり60の画像という、高解像度の映像を実現した。レーザーはハーフミラーに反射させて網膜に送り込み、実際の景色に映像が合成されたように見える。鮮明な映像を作り出すレーザーではあるが、その強さは国際電気標準会議が定める基準値の数百分の一ほどで、なおかつ走査しているため一瞬で通りすぎてしまうこともあり、実際には基準値の数千万分の一程度の強度にしかならない。