東京大学宇宙線研究所によるダークマター(暗黒物質)の探索実験。小柴昌俊東京大学名誉教授の2002年ノーベル物理学賞受賞に際して一躍有名になったカミオカンデやスーパーカミオカンデと同じく、同研究所の神岡宇宙素粒子研究施設における実験の一つとなる。ダークマターとは、宇宙空間で現在確認されている物質の5~6倍存在し、全物質の約7~8割を占めると考えられながら、目には見えない謎の物質。1970年代、渦状銀河の観測の際に遠方の光が曲げられる現象が確認され、そうした事象を証拠に、強い重力をもつが電荷をもたない未知の物質として注目されるようになった。同研究所が開発したXMASS検出器(XMASS detector)は、球体に近い百数十cmの60面体のホルダーに、きわめて微弱な光を捕らえる光電子増倍管を642本配置し、内部に-100℃の液体キセノンを約1t注入したもの。ダークマターは地球上にも1リットル容量当たり約1個の割合で飛び交っていると考えられ、キセノンの原子核と衝突すると、エネルギーの一部が微弱な光に変換されるため、全方位に配置した光電子増倍管がこれを捕らえる。岐阜県の神岡鉱山の地下1000mに高さ10m×直径10mの水タンクを建設し、検出器をつり下げたかたちで設置。タンクに注入する800tの水が自然界の放射線によるノイズを排除し、ダークマターとキセノン原子核との反応を待ち構える。ダークマターの探索は各国で行われており、さまざまな工夫や観測装置が導入されているものの、いまだ成功していない。XMASS検出器の感度は従来の100倍にもなるため、ダークマターが非常に大きな質量をもち、なおかつキセノン原子核との反応度がきわめて低いような観測の難しいケースにまで対応できる。その名前は、キセノン検出器によるダークマター探索を意味する「Xenon detector for Weakly Interacting Massive Particles」などに由来し、2010年夏からの稼働に向けて準備が進んでいる。