イッテルビウム(Yb)原子の振動をもとに、現時点でもっとも高い精度で時間を刻むことができる光格子時計。産業技術総合研究所(AIST)の洪鋒雷(こうほうらい)研究科長および安田正美主任研究員らが2009年に開発に成功し、12年10月18~19日にフランスの国際度量衡局で開催されたメートル条約関連会議にて、「秒の二次表現(secondary representations of the second)」の候補として採択された。続く国際度量衡委員会で正式決定される予定。「秒の二次表現」とは、1秒の長さを決める定義であり、誤差をより小さくするべく、新たな定義が待たれていた。また、光格子時計とは、(1)レーザー光を交差させて光格子という容器を10万~100万の単位でつくり、(2)それらに原子を閉じ込め、(3)原子の振動に基づいて放射される電磁波の周波数をカウントすることで時間を刻む、次世代の原子時計のこと。昨今では、ストロンチウム(Sr)原子を用いた光格子時計の研究が先行しているが、より高い周波数の電磁波を放射するイッテルビウム原子を用いれば、さらに精度を高められると考えられてきた。半面、原子の操作や高い周波数の測定など技術的なハードルが高く、実現が難航していた。同室長らは、最先端のレーザー技術をはじめ、パルスレーザーによる櫛(くし)状の光を並べて周波数のカウントを行う光周波数コム(光コム optical frequency comb)を導入することで、イッテルビウム原子を閉じ込め、その電磁波の周波数をカウントすることに成功した。現在の1秒の定義は、セシウム(Cs)原子が放射する電磁波の周波数91億9263万1770Hz(ヘルツ)を基準にしているが、同成果では518兆2958億3659万0864Hzをカウントしており、これは60万年に1秒の誤差を実現したことに相当する。さらに技術が進歩すれば、理論的には、宇宙の誕生から現在までの時間にあたる137億年に1秒以下の誤差まで精度を高められるという。