多くの生物には、身体のリズムをつかさどる体内時計が備わり、睡眠や起床などの生理的な規則性を保っている。ほ乳類においてその中心をなすのは、脳の奥深くにある約2万個の時計細胞であるが、時計細胞はさまざまな器官にも存在する。それら個々の時計細胞が刻むリズムには、もともと差があるが、互いを同調させ、差を平均化することで、全体として一定したリズムをつくりだす。ところが、真夜中に強い光を浴びると、体内時計が一時的に停止してしまうシンギュラリティー現象が、1970年に発見された。そのメカニズムについては、光の刺激を受けて、(1)個々の時計細胞が機能を止めてしまう、(2)時計細胞同士の同調がくずれてしまう、という二つの仮説が考えられてきた。2007年10月22日、理化学研究所などのチームは、光に反応するたんぱく質を導入したほ乳類の時計細胞を使って、このメカニズムを解明したと発表。「真夜中~昼」の時間帯に光を当てると、リズムが進み、「昼~真夜中」ではリズムが遅れること、また、真夜中の方が光に影響されやすいことを発見した。さらに精査して、シンギュラリティー現象が起こるタイミングの存在をつかみ、光を当てて個々の細胞を観察したところ、それぞれの細胞が刻むリズムが急激に乱れ、互いのリズムを打ち消し合うという、(2)の仮説が正しかったことを確認。ラットを使った検証でも、シンギュラリティー現象がこのメカニズムで発現することが確認された。