地震が発生する前に起こるとされる、VHF帯電磁波の異常伝播現象。VHF帯(very high frequency band)とは、電磁波の中の「電波」と呼ばれる帯域のうち、周波数が30メガ~300メガヘルツのものをさし、各種放送や無線で広く使われている。中でも特にFMラジオの放送波が、地震が起きる前に、ふだんならば届かないような地点まで届くことが経験則として知られており、地震エコーと呼ばれている。この現象は、FM放送のサービスエリアの中に地震の震央がある場合に観測され、地震発生の数カ月~数週間前に継続して観測されるようになり、地震発生の直前に継続が途絶えるというパターンをみせる。地震予知の可能性として一部から注目を集め、中でも北海道大学の森谷武男教授は地震エコーの観測を科学的に発展させるべく、2009年3月には北海道内の10カ所の観測点に合計で50台以上の受信機を設置。数々のデータを検証し、FM放送波の異常伝播が数分~数時間の間隔で特徴的な波形となって現れるものを地震エコーと考え、それがある期間継続したのちに途絶えると、その9日以内に地震が発生することを確認。さらに、異常伝播の継続時間の合計が最大震度と関係し、震源が深ければマグニチュードが大きく、浅ければ小さく、またマグニチュード7クラスの地震では2週間以上前から地震エコーが観測される傾向があることなどもわかった。地震エコーが起こる理由については、(1)地殻やマントルの不安定な状態のせいで地表にある物体がプラスの電荷で帯電し、それがFM放送波を散乱させる可能性、(2)地殻異常のせいで大気中に放出されるラドンの量が増え、3.8日という半減期を経て大気中の水蒸気やチリと結合して帯電を起こし、FM放送波を散乱させる可能性という二つの仮説を立てている。しかしながら、地震エコーの観測は、近くに電磁波の発生源がなく、ノイズとなる電磁波も少ない状況でなければ行うことができず、多くの大出力電磁波が飛び交う大都市では不可能とされる。