京都大学の山中伸弥教授らのチームが、マウスの皮膚細胞をもとに、さまざまな臓器に“変身”させられるiPS細胞を作り出したことが、2007年6月に報じられた。従来、機能を失った臓器を人工的に作り出す「再生医療」の研究では、受精後1週間ほどの卵子(胚)から作るES細胞(胚性幹細胞 embryonic stem cell)が中核をなしてきた。だが、倫理的な問題とともに、自分以外の要素を半分もつ受精卵に由来するため、拒絶反応の問題もあった。そこで、患者自身の細胞に手を加えて、ES細胞と同様の機能をもつ細胞を作る研究が競われている。そうした中、同教授らのチームは、世界にさきがけて、成人したヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作り出すことにも成功し、同年11月20日付の科学誌「Cell」電子版にて発表。また、翌日付の国内での報道発表では「iPS細胞」の和訳を、従来の「人工万能幹細胞」ではなく、「人工多能性幹細胞」とした。マウスの場合と同様に、ES細胞に含まれる4種の遺伝子を組み合わせ、ヒトの皮膚から得た細胞に組み込んで作成する。一方、アメリカのウィスコンシン大学などのチームも、ヒトの胎児や新生児から得た皮膚細胞に、4種中2種を異なる組み合わせにした遺伝子を導入することで、iPS細胞の作成に成功。同月20日付の「Science」電子版にて発表している。さらに、山中教授らのチームは、4種の遺伝子の一つにがん遺伝子を用いていたが、これを使わずに、3種の遺伝子のみを組み込んだiPS細胞の作成にも成功し、同月30日付の「nature biotechnology」電子版にて発表した。