動くものを見極める動体視力をつかさどるたんぱく質で、大阪バイオサイエンス研究所の古川貴久氏らが発見した。2008年7月20日付の「Nature Neuroscience」電子版にて発表され話題になったが、07年中にも国内のセミナーなどですでに発表されていた。網膜は眼球の奥の裏側内壁を覆う器官で、光の情報を神経伝達のための電気信号に変える役割を担う。薄い膜状ながら、それぞれ独自の働きをなす神経で形成された複数の層をなしており、光の刺激を受けると、(1)視細胞層がイオンを放出して電気的な信号を作成、 (2)双極細胞層でより明瞭な信号に整えられ、(3)神経節細胞層を経て視神経を通じ、脳に伝えられる。同氏らは、マウスを使った実験で、視細胞と双極細胞の両神経をつなぐ場所のわずかな隙間、すなわちシナプスの周辺に存在する未知のたんぱく質を発見。そのたんぱく質を欠いたマウスは、光を電気信号に変えるプロセスに支障をきたし、その伝達速度は3分の1にまで低下することが判明。つまり、動いているものを見るときに、その連続した光の情報を網膜が逐次処理していくことができず、その結果、動体視力の低下が起こる。このたんぱく質には「光」「電気」「動き」というキーワードがかかわることから、ゲームやアニメで世界的な人気を博す「ポケットモンスター」の中心キャラクターにして、雷を発し、素早い運動能力をもつ架空の生物「ピカチュウ」になぞらえ、「ピカチュリン」の名が付けられた。