エネルギー、あるいは原料として利用できる生物資源、すなわちバイオマスから製造されるナイロン(「ナイロン」はポリアミドに対するアメリカのデュポン社の商品名)。バイオマスの実用化の最たる例はバイオエタノールであるが、主に食用植物を原料としているため、食料の世界的高騰をももたらした。この点を踏まえ、現在、稲わらや廃木材などの非可食バイオマスを利用するための研究が進んでいる。そうした経緯の中、東レは、植物系の非可食バイオマスから得た物質を原料にしたバイオナイロンの試作に成功。2009年5月18日に発表した。植物系の非可食バイオマスを利用するためには、そこに含まれる糖を取り出し、これを発酵させてアルコールなどの有用物質に変換する必要がある。ところが、この種の植物では、糖質はセルロースという強固な繊維状態をとっているため、これを分解して糖の状態にすることは容易ではなく、各方面でさまざまな方法が試みられているものの、発展途上の域を脱していない。同社は、糖質を微生物発酵することで得られるL-リジンというアミノ酸をもとに、さらに微生物を使い、その酵素による化学反応でC5ジアミンという物質に変換。このC5ジアミン分子に他の分子を結合させて、高分子という巨大な分子状態にすることで、ポリアミド、すなわちナイロンを合成することに成功した。こうして合成されたバイオナイロンは、従来の石油由来のナイロンがもつ強度特性などをもつ一方で、高分子を形成する過程を工夫すれば、約200~300℃もの耐熱性を持ち合わすことも可能となる。なお、セルロースから糖を得るための分解法はさまざまあるが、決定打に欠くため、同社では、この課題についても、特有の技術をもって取り組んでいく方針だという。