免疫には、過去に侵入した病原体を記憶しておき、再び同じものが侵入したときに、いっせいに襲いかかり、駆除する性質がある。この性質を利用し、あらかじめ無害化した病原体、すなわちワクチンを注射しておけば、特定の病気に対する免疫を作っておくことができる。一般に、ワクチンは注射で体内に送り込むものだが、その痛みや、医療廃棄物の増大など、課題もつきまとう。一方、鼻やのど、消化器などの粘膜は、つねに病原体にさらされていることから、この粘膜上にも免疫システムが存在することがわかってきた。そこで、粘膜から浸透するワクチンの研究が進み、東京大学医科学研究所などのチームは、コレラ菌に対する飲食型のワクチンを開発。マウスでの実験成果を、2007年6月15日付の「アメリカ科学アカデミー紀要」電子版にて発表した。コレラ菌から毒素を作る遺伝子の一部を取り出し、これをイネに組み込むことで、毒素にそっくりだが無害なたんぱく質、つまりワクチンを含む米ができる。このワクチンは、米の成分であるでんぷんに保護され、消化されることなく腸へ届き、粘膜上の免疫システムに記憶される。この方法の有効性は、コレラに限ったものではなく、さまざまな感染症への対応も視野に入っているという。