光信号の入力によって動作する原子スイッチ。大阪大学の田中啓文助教、物質・材料研究機構の青野正和拠点長らのグループが開発し、2010年7月13日に発表した。原子スイッチとは、1nm(ナノメートル : 10億分の1m)レベルでプラチナ電極と硫化銀電極を向かい合わせた、極めて微細なスイッチ。このプラチナ電極の側にマイナスの電圧をかけると、硫化銀電極の中に存在する銀の原子が表面に移動して二つの電極の間を結び、スイッチオンの状態となり、次いでプラスの電圧をかけると、銀の原子は硫化銀電極の中へ戻って、スイッチオフの状態となる。デジタル信号の記憶装置(メモリー)の原理は微細なスイッチを集積させ、そのオン(「1」)とオフ(「0」)の状態で信号を記憶するものであり、原子スイッチはこの制御をわずか数ミリボルトの電圧で行えることからも、新たなメモリー候補として期待されている。光原子スイッチはこの原子スイッチに光で制御する機能を加えたもので、光を受けると電気抵抗が激減する光導性分子の膜を二つの電極の間に形成し、光が照射された際に通電してオンの状態になるように発展させたもの。この光導性分子膜をそれぞれ「赤」「緑」「青」の光のみに反応するようにすれば、新たな光センサーの開発にもつながる。また、もともと原子スイッチには、同じ回数の入力であってもその頻度によって記憶状態が変わる性質があるため、頻繁にあらわれる人間の顔のみを記憶するような学習型画像認識システムの開発も考えられるという。さらに、こうした三原色対応の光原子スイッチを高密度で集積化すれば、人工網膜(artificial retina)の実現につながる可能性もあり、人体の電位で機能する人工の眼を作り出すことも夢ではなくなる。