前者はヨウ素(I)の、後者はセシウム(Cs)の放射性同位体(RI ; radioactive isotope)。同位体とは、元素の原子核を構成する陽子と中性子のうち、中性子の数だけが異なるものをさす。ともに、天然には存在しない、核分裂の際に生成される揮発性の物質で、放射能(radioactivity)、すなわち放射線を発する能力をもつ人工放射性核種(artificial radionuclide)となる。原子力災害や核爆発の際に環境に放出され、揮発性ゆえに大気や水に混ざって拡散し、それにともなう放射線が広範囲にわたる深刻な放射能汚染を広げる。2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の津波による福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故に際しても、この数値が各地で連日計測されている。
天然のヨウ素は放射能をもたない原子番号53のヨウ素127(陽子53個+中性子74個で127の意味)で、ドイツ語表記「Jod」の音訳からヨード(沃度)とも呼ばれるため、放射性ヨウ素は放射性ヨードとも呼ばれる。代表的なのはヨウ素131(I-131)で、放射線の強度が半分になる半減期(half life)は8.06日となり、弱い透過力をもつベータ線(β線)と、強い透過力をもつガンマ線(γ線)を放出する。これが体内に取り込まれると、天然のヨウ素と同様にのどにある甲状腺に集まって蓄積され、甲状腺機能障害などをもたらす。一方で医療用として、甲状腺や前立腺、眼に発症した特定のがんの治療や、がん患部に蓄積させて画像診断に役立てることもある。厚生労働省の「飲食物摂取制限に関する指標」によると、飲料水や牛乳・乳製品は1キログラム当たり300ベクレル以下、根菜・芋類を除く野菜類では同2000ベクレル以下が指標値とされる。
天然のセシウムは放射能をもたない原子番号55のセシウム133で、放射性として代表的なセシウム137(Cs-137)は半減期が約30年で、ベータ線とガンマ線を放出する。カリウムに似た化学的性質をもつことから、体内に取り込まれると全身に分布することになるが、数十日から100日程度で約半分が体外に排出される。一方で医療用として、患部への放射線照射などに利用されるほか、工業用のガンマ線源としても役立てられている。指標値は飲料水などが1キログラム当たり200ベクレル以下、野菜類や穀類、肉、卵、魚などが同500ベクレル以下とされる。なお、核種を問わず、乳児に対する指標値は同100ベクレル以下となる。