「生物の起源」や「地球外生物の成り立ちの可能性」、「地球を離れたときの生物の進化や変化の可能性」などを探求する学問分野。地球上にも、高温、高塩濃度、低酸素、高圧力という信じがたい環境下で生息する極限環境微生物(extremophilic microorganism)が数多く存在しており、地球とは条件が異なる天体であっても、定説に当てはまらない生物が存在する可能性は否定できず、また地球の生物が地球外の環境に適応する可能性も否定できない。そうした可能性の探究は、同時に生命の原理に近づく手立てでもある。2010年11月29日、NASAが「宇宙生物学上の発見」と銘打った異例の会見予告を行い、「宇宙生物学」という聞き慣れない学問が地球外生物の発見を思い起こさせ、世界中が注目した。そして、12月2日の会見で発表されたのは、アメリカ航空宇宙局宇宙生物学研究所(NAI : NASA Astrobiology Institute)のグループがカリフォルニア州のモノ湖でヒ素を摂取する新種の細菌「GFAJ-1」を発見したという成果であった。当然、期待ほどのインパクトはなく、落胆の声もあがったが、生物の構成に不可欠とされる、水素、酸素、炭素、窒素、硫黄、リンの6種の元素のうち、リンの代わりに猛毒のヒ素を摂取し、代謝し、増殖するという、生物学の固定概念を覆す発見には違いない。GFAJ-1は大腸菌と同じガンマプロテオバクテリア(Gammaproteobacteria)のハロモナス類(Halomonadaceae)に属するもの。発見されたモノ湖(Mono Lake)は塩分濃度が高く、アルカリ性で、ヒ素が多く含まれている塩湖(salt lake)であるため、定説からすれば生物が生存できる環境ではない。一方、元素をその原子番号の順に並べていくと、化学反応や結合などにみる性質の類似性が一定の周期で繰り返し現れる。この周期性を整理したのが周期表で、ヒ素はリンと同じ「15族」に分類されており、細胞に取り込まれやすい共通点もその類似性に起因する。そのため、研究責任者のフェリッサ・ウルフ・サイモンは09年に「リンの代わりにヒ素を摂取する生物が存在する可能性」を提唱しており、今回の成果でそれを証明した。