脳からはじまる神経系は、神経細胞が連なり、体の決まった場所と正確に結合することで成り立っている。それによって、脳からの指令通りに、体の隅々までを正しく動かすことができる。だが、この複雑に張り巡らされる神経系は、なぜ、つながるべき相手を間違えることなく、正確に結合できるのか。神経細胞が何かを「目印」にしていることは予想されており、それを裏付ける発見もあるが、東京大学のチームは、今まで知られていなかったメカニズムを発見した。特殊なマイクロチップを使った解析方法を開発し、ショウジョウバエをモデルに、遺伝子の働きを調べつつ、神経細胞が筋肉とつながっていく過程を調べた。その結果、筋肉細胞からWnt4というたんぱく質が分泌されていることを発見。しかし、このWnt4は、「神経細胞がつながるための目印」になるのではなく、「神経をつながらせないための目印」として機能していた。ある神経細胞が「A」という場所につながらなければならないとき、「B」や「C」など他の場所がWnt4を分泌。「こちらにくるな」とばかりに、結合を拒絶するという。この成果は「Current Biology」オンライン版2007年8月30日号にて発表された。Wnt4に似た物質はほ乳類でも見つかっており、ヒトにおいても、同様の働きがなされている可能性が高い。それが確認されれば、将来、神経を目的の場所に導き、再生させるような治療の確立につながる可能性も考えられる。