東京大学の相田卓三教授らが開発した、高い強度と自己修復性をもつ透明なハイドロゲル(hydrogel)。JST(科学技術振興機構)の事業研究課題の一環による成果で、2010年1月21日に発表され、同日付の科学誌「nature」オンライン速報版で論文が公開された。ハイドロゲルとは、化学物質によって大量の水を閉じ込めたゼリー状の物質で、人体との親和性が高く、人工軟骨をはじめドラッグデリバリーシステムへの応用、あるいは環境負荷の少ない新材料への応用などが期待されている。しかしながら、強度が低く、形を保つことも難しいうえ、不透明であるなど、実用化へ向けての問題も山積していた。同教授らは、樹木状に広がった「腕」をもつデンドリマーと呼ばれる高分子の一種がガラスに粘着する性質をもつこと、そしてクレイと呼ばれる層状粘土鉱物にガラスと共通するオキシアニンという成分が含まれることに注目。その組み合わせを探る中で、(1)紙おむつの吸湿剤として知られるポリアクリル酸ソーダの水溶液にクレイを混ぜると、クレイはナノレベル(10億分の1m)のシートに分解され、同時に水を含んだこの化学物質に覆われながら分散、(2)水と結合するポリエチレングリコールの末端に、クレイのオキシアニンと結びつく「腕」をもたせたデンドリマーを(1)に混入、(3)3分ほどかきまぜると、デンドリマーとクレイのナノシートが結合し、大量の水を閉じ込めながら、三次元的な編み目構造をもつ骨格を形成することを発見した。こうして開発されたアクアマテリアルは、透明度が高く、こんにゃくの約500倍の強度をもち、変形しても即座に形状を復元する一方で、切り離されてもすぐに張り合わせれば結合するような特性をもつなど、従来の問題点を克服するものとなった。95%の水と2~5%のクレイ、そして0.4%に満たないデンドリマーという単純な成分で構成されており、どれも安価なうえ、きわめて簡単な工程で製造できる利点もある。