東京電力福島第一原子力発電所の事故で、高濃度汚染水を増やさずに原子炉を安定して冷却し、安全な状態の冷温停止にもっていくために作られたシステム。福島第一原発事故では、格納容器が破損した原子炉を冷却するために外部の水源から注水を続けた結果、高濃度の放射能に汚染された水が大量に発生した。冷却に注水は必須だが、汚染水が貯蔵施設の限界を超えてあふれると、周囲の環境に計り知れない悪影響を及ぼすことになる。そのため、建屋にたまった高濃度汚染水を浄化して冷却水として再利用する方法が考え出された。循環注水冷却のシステムは、冷却水の貯蔵タンクから原子炉へ注水し、発生した高濃度汚染水を回収して浄化処理施設で除染、低濃度の汚染水として貯蔵タンクに戻し、これを原子炉への注水に再利用する循環サイクル。東京電力が2011年5月17日に発表した改訂版工程表では、原子炉冷却対策の柱とされた。循環注水冷却のシステムは放射性物質や油分などを除去する汚染水浄化システム(汚染水浄化装置)部分と、処理水をタンクにためて原子炉に注ぐ注水部分からなる。このうち、重要なのが汚染水浄化装置部分で、回収された高濃度汚染水は、初めに油分離装置を通して油分を除去、ついで、ゼオライトを使用したアメリカのキュリオン社製セシウム吸着装置で放射性セシウムや放射性ヨウ素などを除去する。さらに、特殊な薬液を混ぜてセシウム、ストロンチウムを沈殿させるフランスのアレバ社製除染装置を通し、最後に逆浸透膜方式の淡水化装置で塩分を除去する。8~10月以降は浄化した水を蒸発させて量を減らす装置の稼働も予定される。1日の処理能力は1200トンで、放射性物質の濃度は1000分の1~1万分の1に下げられる予定。循環注水冷却は、6月末段階で汚染水が12万トンを超え貯蔵が限界に近づくなか、6月27日から本格的に稼働を始めた。当初は、配管やタンク等の漏水などでたびたび運転を停止する事態が起きたが、7月2日には汚染処理水のみによる注水を開始している。