1985年にスイスのバーゼル大学のデイビッド・マッサーとフランスのピエール&マリー・キュリー大学のジョセフ・オエスタールが、それぞれ独自に提唱した整数の理論。
(1)「1」以外に共通の約数がない自然数AとBとCについて、A+B=Cの関係があり、
(2)A、B、C、それぞれの素因数の積を、r(abc)とするとき、
(3) r(abc)の2乗>Cが、常に成立する。
というもので、A、B、C、それぞれの素因数について成り立つ関係を分析した理論となる。なお、自然数とは、正の整数のことであり、素因数とは、ある数の約数になっている素数のことで、素数とは、「1」と「自分と同じ数字」以外で割り切ることができない数をさす。
たとえば、(1)で、A=3、B=125とすると、3+125で、C=128になる。
このそれぞれを素因数に分解すると、Aの素因数は「3」、Bは5の3乗になるので「5」、Cは2の7乗になるので「2」となり、(2)のr(abc)は、3×5×2=30になる。
さらに、r(abc)を2乗すると、30×30=900なので、900>128となり、(3)の条件を満たしている。
しかし、整数は無限にあるため、あらゆるケースにおいて、この関係が成立するのかどうかについては、証明がきわめて困難であり、数学における未解決の難問の一つに数えられていた。
そうした中、2012年8月末、京都大学数理解析研究所の望月新一教授は、これを証明したとする500ページにも及ぶ4部構成の論文を自らのホームページで発表。科学誌「nature」や「Science」がホームページなどを通じてこのニュースを取り上げ、証明の可能性について報じると、数学の世界の枠を超えて広く注目を集めた。しかし、その証明過程には、宇宙際タイヒミュラー理論と呼ばれる理論を独自に発展させた非常に難解な手法が導入されているうえ、論文の分量も膨大であるため、正否を判定するには相当な時間がかかると考えられる。だがもし、この論文の証明が正しければ、望月教授の新たな手法は数学分野の強力なツールとなり、数々の数学の難問の解決に大いに寄与するといわれている。