九州大学の大屋裕二教授らが開発した、新しい風力発電システム(wind power generation system)。日本のように、風速が弱いうえ、風向きも頻繁に変わるという、風力発電には不利な条件下であっても、安定的な電力を得るべく考案されたもの。風車の回転でタービンを回して電力を得る点は通常の風力発電と変わらないが、メガホンのように末端が広がった筒状の構造体で風車を囲んでいる点が大きな特徴となる。この筒は気体や液体の流れを変えることで低い圧力をつくりだすディフューザー(difuser)と呼ばれる装置で、広がった末端部にはシルクハットのようなつばも付けてある。そのため、ディフューザーの外側を流れる風は末端へ流れるほど広がって気圧を下げ、その後、つばの部分にぶつかって内側へ丸まり込むような渦をつくる。この低圧の渦は、ディフューザーの内側を通ってくる風を引き寄せて、風車に流れる風の速さを1.3~1.5倍にまで増幅させることになり、また風力発電の発電量は風速の3乗に比例するため、結果として2~3倍の発電量を得られるようになる。そのうえ、風車が高い回転力を得られるようになれば、風車の羽根(ブレード)自体を小さくすることもできるので、現行の風力発電システムで問題となっている「聞こえない騒音」、すなわち、大きな風車の末端部がつくりだす低周波音(low frequency sound ; infrasound)を抑えることもできる。さらに、ディフューザーに網を張れば、野鳥がブレードに衝突してしまうバードストライク(bird strike)への対策にもなる。九州大学と福岡市は、博多湾の600メートル沖合で、直径3.6メートル、定格出力3キロワットの風レンズ風車2基を浮き台に設置し、2011年12月から実用化に向けた実証実験を開始する予定。