ヘリコプターがホバリング(hovering 空中停止)から降下をしかけたときに、降下を止めようとしても止まらず、多くが墜落事故につながることになる現象。どのような航空機でも揚力(機体を持ち上げる力)を得なければ、機体を浮かせることはできない。固定翼を持つ航空機は主翼の上下を流れる空気に速度差を生じさせることで、ベルヌーイの定理から揚力が生まれる。一方、ヘリコプターのような回転翼機は、回転面に対して傾斜したローターが回転することで空気が下方へ吹き出されて揚力が生まれる。ヘリコプターがホバリングしているとき、自らが吹き降ろした空気を吸い込むような流れの中に機体が入り込むと、エンジンを全開にしても揚力を発生させることができなくなり、機体は失速状態に陥る。原因としては、すり鉢のような形状の地形に機体が進入した場合、メインローターが自ら吹き出した空気が、地形の形状に沿って上方へ回り込み、それが再度ローターに吸い込まれることで、空気の渦の輪が生じるとされている。この状態から回復するには、ローターを傾斜させて前進速度をつけて空気の渦の輪から抜け出す必要があるが、狭い山岳地帯では対応が困難である。2010年7月25日、埼玉県秩父市の山中で、山岳遭難者の救出にあたっていた埼玉県防災ヘリコプターが墜落。その原因の一つとしてセットリング・ウィズ・パワーが発生した可能性が疑われている。