1930年代まで、日本で最も深い湖である秋田県の田沢湖のみに生息していたサケ科の淡水魚。別名をキノシリマスといい、ヒメマスと似ているが、体色が暗黒色であり、体やヒレに斑紋がない点が特徴とされる。成長すると全長30センチほどになる。1940年から開発の影響で、玉川温泉の強酸性のわき水が田沢湖に入り、湖水が酸性化したため、個体数が激減。環境省による絶滅危惧種を収めた書籍「レッドデータブック」では絶滅の指定を受けており、標本も国内に数個体しか残っていないことから“幻の魚”とされていた。2010年12月、クニマスが山梨県の西湖で生息していることが京都大学の中坊徹次教授らの調査で判明した。再発見のきっかけとなったのは、豊富な魚の知識で知られるテレビタレントで、東京海洋大学の客員准教授でもあるさかなクンで、クニマスの絵を描く依頼を受け、資料として特徴の似た西湖のヒメマスを取り寄せた際に、クニマスに似た黒い色の個体が交じっていることに気づき、中坊教授に相談。さかなクンが持ち込んだ個体を、同教授が調べたところ、エラや消化器官の構造がクニマスと一致し、遺伝子解析により交雑種でないことも確認されたという。1935年に西湖や本栖湖などにクニマスの受精卵が送られたとの記録が残っており、同地で放流され、繁殖したと見られている。西湖の漁協ではクロマスと呼ばれ、産卵期などに黒く変色するヒメマスと同じものだと思われていた。西湖のある富士河口湖町は、プロジェクトチームを立ち上げ、クニマス保護のための検討に入った。