同じ殺虫剤によって防除され続けた害虫が、世代を経て集団として獲得する、殺虫剤に対する抵抗性。これを獲得した害虫を抵抗性害虫、あるいは殺虫剤抵抗性害虫(insecticide resistance insect ; resistant insect to insecticide)といい、排出機構や解毒能力を強化させたり、酵素や受容体など、殺虫剤の成分が結びつくものの構造を変化させたりすることで抵抗性を発揮するようになる。現在、約500種類に及ぶ抵抗性害虫が確認されており、これらの害虫には、産卵数が多いうえ成虫になるまでの期間が短く、増殖能力も高いといった共通点がある。より強力な合成物質に対しても抵抗性を獲得するようになることから、そのメカニズムには突然変異などの遺伝子の作用が関係し、殺虫剤が効かない個体が現れて生き残っていくことで、集団として抵抗性を獲得するようになると考えられてきた。しかし、2012年4月24日、産業技術総合研究所(AIST)の菊池義智研究員らのグループは、大豆の害虫であるホソヘリカメムシが、土壌細菌のバークホルデリアを消化管に共生させる見返りとして殺虫剤抵抗性を獲得していることを発見し、従来の定説をくつがえした。土壌細菌の中には、国内外でもっとも多用される有機リン系化合物・フェニトロチオンを分解して、栄養素の炭素源にしてしまうものが存在し、バークホルデリアにもこの機能をもつ菌株が存在する。ふつう、共生細菌は親から子へと直接受け継がれていくが、ホソヘリカメムシの場合は、幼虫が世代ごとに新たにバークホルデリアを取り込み、それを消化管の盲嚢(もうのう)という袋状の組織に共生させることで、体内に入った殺虫剤を分解してもらっていることが判明した。また、この菌と共生するホソヘリカメムシは、そうでないものより体のサイズや産卵数が増加する傾向もある。今後、詳細な調査が進めば、害虫の殺虫剤抵抗性を未然に防ぐ新たな防除技術の開発につながる可能性がある。