太平洋の各海域において、およそ10年の周期で大気と海洋の状態が顕著に連動しながら変動する現象。日本の東方海域を含む環太平洋では、北太平洋中央部で平年よりも水温が低くなるときに、北太平洋東部や赤道の付近では水温が高くなり、転じて前者の水温が高くなったときには、後者の水温が低くなるようなシーソー状の変動が生じる。さらにその際、北太平洋中央部の海面水温が低いときには、その上空の低気圧と偏西風が強く、太平洋東部では南風が強くなるような、気温や降水量、さらには海洋生態系にまで及ぶ連動が1977年ごろから確認されている。そのメカニズムについては仮説の域を出ていないが、東京大学気候システム研究センター、海洋研究開発機構、国立環境研究所のグループは、従来から地球温暖化予測研究でも利用している大気海洋結合気候モデルMIROCを用いた計算システムを開発。スーパーコンピューターの「地球シミュレータ」上で気候予測実験を行ったところ、過去実際に起きたPDOに近い結果を算出することに成功し、PDOを10年規模で予測できる可能性を世界で初めて実証。2010年2月22日に発表した。システムの概要は、(1)海面から700mの深さまでの水温と塩分に関するデータを1945年のものから入力しておき、(2)その変動の様子を学習させたうえで、(3)予測計算のスタート時、すなわち初期値を1960年7月1日から5年おきに設定、(4)力学・熱力学の法則にもとづいて、それぞれの初期値に対して15年先までの状態を順次計算、(5)初期値のわずかなゆらぎが、その後の連続計算で大きなばらつきを生じることになるため、それぞれの初期値について、少しずつ変化させた10通りの計算を行い、その平均値で長期に及ぶ動的過程を追う。結果、20世紀後半についての複数の再現実験では、おおむね最初の6年間程度にわたり、過去実際に起きたPDOの動向と同様の計算結果が導かれた。さらに、2005年7月を初期値に設定した計算においては、06年ごろに実際に起きたシーソー状の変動までも再現し、08年までの平均的な観測値ともよく一致した。同システムによる予測では、12~13年ごろまでの地球平均気温の上昇は、PDOの影響で一時的にゆるやかになりそうだという。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次評価報告書に貢献することも期待されている。