人為的に光合成を起こすこと。光合成とは、二酸化炭素(CO2 “2”は下付き表記。 carbon dioxide)と水、そして太陽光などの光エネルギーによって、酸素を放出しつつ有機物を合成する光化学反応(photochemical reaction)で、広く植物でみられる。人工光合成が実現すれば、二酸化炭素を原料にして燃料を得ることも夢ではなく、二酸化炭素の排出問題と化石エネルギーの枯渇問題とを同時に解決できる可能性を秘めているため、太陽光を利用する新しいエネルギーシステムとして古くから研究が進んでいる。しかし、完全な光合成を実現することは難しく、従来は、太陽光には含まれない高エネルギー領域の紫外線を照射したり、外部から電気エネルギーを加えたり、あるいは反応を促すための犠牲薬という添加剤を導入したりすることで、光合成に近い反応を作り出すことが精一杯だった。しかし、豊田中央研究所(愛知県愛知郡)は、太陽光エネルギーを利用し、水と二酸化炭素だけを原料にして継続的に有機物を合成できるという、世界で初めての完全な人工光合成の実証に成功し、2011年9月20日に発表した。開発したのは、半導体と金属錯体(分子構造の中心に金属や金属イオンをもつ化合物)の間にプロトン(陽子)交換膜をはさんだ構造の装置になる。この装置における反応のプロセスは、(1)太陽光エネルギーによって、水(H2O。“2”は下付き表記)から電子を抽出し、酸素(O)とプロトン(H+。“+”は上付き表記。水素〈H〉から電子が離れると、陽子になる)に分解、(2)抽出した電子2個と、プロトン交換膜を通過したプロトン2個が金属錯体の側へ移動し、二酸化炭素と反応してギ酸(HCOOH)が合成される、というもの。現状では、太陽光エネルギーの変換効率が植物の光合成効率の5分の1程度、つまり0.04%ほどしかなく、合成する有機物についても、より有用な物質を得るためには炭素を複数含ませる必要があるなど、課題も残されている。