光は秒速30万kmもの速度をもつため、明滅パターンでデジタル信号を伝える光通信に利用されている。この光信号を現状のように電気信号に置き換えることなく、光のまま直接処理できれば、電子回路を超える性能や低エネルギー消費を実現できる。そのためには、電子回路における半導体デバイスに相当する光の制御デバイスが不可欠であり、その有力候補が、シリコンなどの基板上に数百nm(ナノメートル)の間隔で周期的なパターンを施したフォトニック結晶である。光の波長に合わせたこの加工パターンをわずかに乱す個所をつくると、共振器の役割を果たすようになり、光が限りなく反射を繰り返して閉じ込められ、その結果、光の速度も遅くなる。この効果を発展させ、さらに光をより細かく操作するための制御光を用いれば、光信号の蓄積や変調、増幅、反射や屈折、信号同士の衝突回避が自在になり、半導体のようにスイッチやメモリーなどの機能をもつデバイスになり得る。光の制御は非常に難しく、各国で開発が競われている。2006年12月、NTT物性科学基礎研究所は、光を1ナノ秒以上閉じ込め、約5万分の1まで減速させるという、従来の記録を更新するフォトニック結晶共振器の開発を発表、光情報処理の可能性に近づいた。この技術が進展し、光の粒子である光子を1個単位で操作できるようになれば、極微世界で起こる不可思議な現象を利用して並列処理を行う量子情報処理の実現にもつながる。