飛行能力を人為的に抑制して行動範囲を限定することで、生物農薬としての効率性を高めたテントウムシ。化学農薬の殺虫剤のように、害虫に対して天敵を使うことを生物農薬という。農産物に被害をもたらすアブラムシの天敵はテントウムシである。名古屋大学生命農学研究科の新美輝幸助教ら資源昆虫学のグループは、羽の形成に必要な遺伝子の働きを抑えることで「飛べないテントウムシ」を作り出す方法を世界に先駆けて確立。昆虫科学専門誌の「Insect Molecular Biology」の電子ジャーナル版(2009年7月21日付)に発表した。昆虫の羽を形成するマスター遺伝子がベスティジアル遺伝子(vestigial gene)(vg遺伝子)であることは、ショウジョウバエの研究から知られていた。テントウムシのvg遺伝子の機能を阻害することで羽が形成されず、飛行能力のないテントウムシを誕生させたもの。これまでも、飛行能力の低い個体を選んで交配を繰り返すことで、飛ぶ力を失ったテントウムシを繁殖させる技術は開発されていた。しかし今回の新たな方法は、遺伝子にまったく影響を及ぼさないので、野外に放たれても種に影響を与えることがない。飛べないテントウムシは行動範囲が限られ、ひたすらアブラムシを捕食し続けるので化学農薬が不要となり、生物農薬としてきわめて有望と見られている。