人類が宇宙へ進出するにあたり、宇宙環境が人体に及ぼすさまざまな影響を研究する医学領域を宇宙医学(space medicine)という。フライト・サージャン(FS)とは地上と宇宙を往還し宇宙空間に滞在する飛行士(旅行者)の健康管理に携わる、宇宙医学の知識を有する専門医のことである。宇宙はこれまで人類が進出したなかでも、最も過酷な環境の空間である。宇宙には人間の生存に必要な酸素も温度も重力もなく、人為的な環境で存在することになる。このため人体は、無重力による骨や筋量の低下、宇宙線の曝露、隔離閉鎖空間に居住することからくる心理的なストレスなど、さまざまな問題にさらされることから、生理学と心理学を中心に、その問題の解決に取り組むのがフライト・サージャンの役割である。飛行士の健康管理は、宇宙飛行ができるかどうかの飛行前健康管理、飛行中の健康管理、宇宙ステーション長期滞在中の健康管理、宇宙船外活動における健康管理、飛行後の健康管理などから構成されている。もともと航空機に乗ることを職業とする人が、航空環境で身体に受ける身体的・心理的影響を研究する領域を航空医学といい、その専門医をフライト・サージャン(FS)と称したが、航空パイロットの数が多く、また早くから有人宇宙飛行に取り組んできたアメリカでは、すでに100年近い歴史がある。日本では、宇宙飛行士が初めて採用された1985年から始まり、2010年2月現在、3人のFSがJAXA(宇宙航空研究開発機構)に所属している。