国立天文台の大須賀健助教、京都大学の嶺重慎教授らのグループが発見した、ブラックホールジェットのメカニズムを説明する新たなモデルで、2010年10月25日に発表された。ブラックホールは、光でさえ抜け出せないほどの巨大な重力をもつ天体であるが、同時に、重力で引きつけたガスを細く絞り、光速(秒速30万キロ)の99.98%という速度で、ときに数十万光年(1光年は約9兆5000万キロ)の彼方まで双方向に噴き出すことが知られており、この噴出流(ジェット)をブラックホールジェットという。ブラックホールを暗黒の球体とすると、その周囲には、今まさに吸い込まれようとする膨大なガス状の物質が、高温で明るい巨大なリング状の雲となって回転している。この降着円盤(accretion disk)とブラックホールの間には隙間があり、ジェットも正確には降着円盤のガスが噴き出しているものだが、ガスがジェットへ転換されて細く絞られる過程や、なぜ巨大な重力を振り切ることができるのかは解明されていない。この点について、(1)降着円盤をかたちづくるガスの磁力線が磁場の筒をつくり、この磁気タワー(magnetic tower)がジェットを細く絞っているとするモデルと、(2)光には非常にわずかではあるが圧力があるため、それが集まって大きな力となり、ガスを噴出しているとするモデルが提唱されている。しかし、(1)では、大量のガスを吹き飛ばすことはできないし、(2)では、ジェットを細く絞ることはできない。同グループは、スーパーコンピューター「Cray XT4」を約2週間動作させる大規模なシミュレーションを行い、(1)と(2)が巧妙に組み合わさると、降着円盤のガスがブラックホールに吸い込まれる際、ガスの磁場が増幅されて、バネのように密にらせんを描きつつ円すい状に末広がりする構造の磁気タワーが形成され、また、ガスの密度が高まるとともに温度が上昇して強い光が放たれるため、その光の圧力が、細く絞り込まれたガスを加速させるという、ハイブリッド・モデルを発見した。ジェットが周囲の星や銀河の進化に与える影響や、ガスの成分の特定なども今後のテーマとなる。また、同様のジェットは、強い重力をもつ原始星などの天体でもみられ、総称して宇宙ジェット(astrophysical jet)という。